「オープンソース」を使ってみよう (第43回 OSSライセンスを気にしない使い方)
02/09
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■OSSライセンスって?
オープンソースカンファレンス(OSC)で展示や講演される
オープンソースソフトウェア(OSS)には、まるめて言うと「OSSライセンス」と
呼ぶ以下のようなライセンスがあります。
OSS |
OSSライセンス |
xx LinuxのLinuxカーネル | GNU GPLv2 |
NetBSD | 伝統的なバークレーライセンス(BSDライセンス) |
OpenStack | Apache License 2.0 |
OpenDaylight | Eclipse Public License (EPL) |
Hadoop | Apache License 2.0 |
Hinemos | GNU GPLv2 |
Zabbix | GNU GPLv2 |
PostgreSQL | PostgreSQL License (BSDライセンス) |
MySQL | GNU GPLv2 (または商用ライセンス) |
LibreOffice | MPL 2.0 |
これらのうち、BSDライセンスの条文は、
プログラムソースのヘッダ部分に書かれるぐらい短いものです。
しかし、その他のライセンスの条文は、
印刷すると数ページ以上になるので、なかなか読むのがしんどいです。
なお、条文は、ほとんどが英文で書かれた原文が正式ですが、
各コミュニティのサイトや下記OSDNサイトに日本語参考訳があります。
そちらから読み始めると取っつきやすいかもしれません。
OSI 承認オープンソースライセンス 日本語参考訳
これらの条文に、それぞれで表現は様々ですが以下のような条件が書かれています。
- 著作権、ライセンス条文本体、免責条項を見えるように(コピー)すること
- バイナリのソースコードを添付すること
- など
これらの条件が書かれたものが「OSSライセンス」と呼ばれるものです。
■何のライセンス?
話が飛ぶようですが、皆さんは、「ソフトウェアライセンス」と言われると、
どういうものを思い出しますでしょうか?
WindowsなどについてくるEULA(End User License Agreement)などをイメージ
しませんでしょうか?プログラム使用許諾契約書などとも言われることもあった
アレです。
昔は、パッケージソフトウェア、家電量販店のコンピュータソフトコーナーに
並んでいるパッケージの裏面に記載があって、パッケージを購入し、包んで
いるラップを破くと、そこに書かれている内容に合意したとみなすという契約書
(シュリンクラップ方式)でした。しかし、老眼でなくても読めないような小さな
字で書かれた文書を購入前に読むことなどほとんど有り得なく、今はほとんど
使われなくなった方式です。
今は、クリックオン(当初はクリックラップと呼ばれましたが、
「ラップをクリック」するわけではないので、クリックして先に進む(on)が妥当?)
と呼ばれる方式が主流です。
プログラムをインストール時(または最初の起動時)にEULAが表示され、
合意するか否かクリックするアレです。
(でも、最近、パッケージを買うこともなく見かけないか・・・)
さて、コミュニティサイトからダウンロードしたOSSは、バイナリでも、
ましてやソースコードからビルドしたものは、クリック オンのような
契約行為は存在しません。
企業の法務や知財の人が、OSSライセンスを語るときに、
OSSを使ったことが無いのか、「受け取ったときに契約に合意している」
と、クリックオンを前提に話されていることを見かけることがあります。
が、OSSにクリックオンは、ありませんって・・・。
(OSSをベースに商品化したものにはあるかもしれませんが)
もし、OSSにクリックオンがあたっとすると、
OSIのOSD(オープンソースの定義)で言えば、第10項に違反するので、
OSIの定義に従うと、それはもうOSSと呼べません。
そもそも、正当に入手した著作物、例えば、書籍を読むのに改めて許諾が必要な
わけではありませんし、音楽を聴くのに改めて許諾が必要なわけではありません。
このような「読む」「聞く」といった著作物の享受を日本国著作権法上は「使用」
と呼んで、複製権などの行使の「利用」と区別しています。つまり、著作権は
著作物の利用権ですが、著作権法には「使用権」は存在しません。
使用に当たって、著作者の許諾を得る必要はないのです。
本来、「プログラム使用許諾」ということば自体おかしなものです。
使用を許諾する権利が無いからです。それでは、リバースエンジニアリングを
禁止するなどの条件を付与できないので、無理矢理契約行為を設け、契約の
「債権」として「使用権」のようなものを設けることが商習慣として普及して
いるのです。
それが、一般に「ソフトウェアライセンス」とイメージするものかと思います。
しかし、OSSにはクリックオンで合意する契約行為が無いのですから、
OSSライセンスは、契約に基づいた使用権のライセンス(許諾)ではありません。
そういう意味で、OSSライセンスはソフトウェアライセンスではないのです。
では、何か?
著作権法で規定されている利用権、つまり、著作権の各支分権(主に複製権)の
行使を許諾するライセンスなのです。複製権の行使は、OSSという著作物を
CDRに焼いて複製するとか、Webにアップロードしてダウンロード可能、つまり、
複製可能状態にすることです。OSSライセンスは、それを許諾するライセンスと
いうことになります。
■他人の複製権を行使しない使い方
他人の複製権を行使するためには、「GPLなどのOSSライセンス条件を満たす」
ことが条件になります。逆に言えば、他人の複製権など著作権を行使しなければ、
GPLなどのOSSライセンス条件を満たすことを気にしなくてもよいわけです。
そう、
「オープンソース」を使ってみるだけ
ならば、他人の著作権を行使していません。
その場合、OSSライセンスを気にしなくてもよいのです。
それは、お試しで使ってみるだけに限りません。
前述した著作権の「利用」していなければ、
OSSライセンスを気にせずに使うことができます。
例えば、ダウンロードしたOSSを実行して、以下のようなことが出来ます。
- GCCでコンパイル・リンクして、
自分の著作物として実行形式のプログラムを作成する - GDBやその他ツールで、自分のプログラムをデバッグする
- 性能分析ツールで、自分のプログラムをテストする
- Sambaでファイル共有フォルダを作り、開発プロジェクトで資料を共有する
- Apache HTTP serverで社外Webを構築し、情報発信する
- OpenStackでプライベイトクラウドを構築する
- etc.
■OSSライセンスは利用の際の許諾です
と、言ってきました。
だからこそ、OSSという著作物の他人の著作権を行使(侵害)しない形で使用
すれば、長いOSSライセンスの条文を読む必要も気にする必要も無いのです。
そんなOSSを、開発者に感謝しつつ、ありがたく使用させていただきましょう!
次号では、OSSライセンスの理解に重要な「著作権が世間で理解されていない
現状の一例(仮)」について解説します。
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OSSライセンス姉崎相談所
姉崎章博
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■参考情報
以上のように、著作権法の「利用」と「使用」を区別できるように
適切に理解できるようになれば、OSSの活用も広がるわけです。
著作権法の教材は、小学生向けから、文化庁が下記で公開しています。
著作権に関する教材,資料等|文化庁
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/kyozai.html
書籍では、初めて読むものとしては、下記が一番取っつきやすいかもしれません。
鷹野凌著/福井健策監修
「クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わって
きました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本」
インプレス
http://e-hon.tameshiyo.me/9784844337973
この試し読みの16枚(30ページ)だけでも、以下のように、
良い感じの表現があります。
P13 著作権はどうやって使う
もちろん、何でもかんでも弁護士や弁理士に相談しなさいと
は言いません。
忙しいのは仕事冥利に尽きますけど、自分で自分の身を守るには、
ある程度の知識が必要です
P14 同上
『文化の発展に寄与』するのが目的ですから、権利ばかり強くなって
『公正な利用』の妨げになってしまっては困りますからね
「窓の杜」のコラムで無料で読むこともできますが、私にはちょっと
読みにくいので、価格も1200円ですので、書籍で読まれることをお勧めします。
http://forest.watch.impress.co.jp/category/other/column/copyright/